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マーケティング用語のインサイトとは?意味や見つけ方を簡単にわかりやすく解説

マーケティング用語のインサイトとは?意味や見つけ方を簡単にわかりやすく解説

インサイト」とは、消費者自身が気づいていない隠された欲求・気持ちのことです。一般的に知られる「顕在ニーズ」「潜在ニーズ」とは区別されています。

インサイトを見つけることは、消費者ニーズが多様化した現代のマーケティングにおいて非常に重要です。

既存製品の新しい価値づけによって新規市場を開拓したり、新製品の方向性を定めたり、新しい顧客を掘り起こしたりできるため、たとえ技術が優れていなくても、インサイトを探ればイノベーションを起こすことができるようになります。

この記事では、WEBマーケティング会社のエレメントのディレクター石山が、インサイトの基本的な意味や見つけ方を解説するとともに、消費者のインサイトを鋭く洞察するための思考方法について紹介します。

この記事を読めば、

  • インサイトは現代のマーケティングにおいて不可欠な要素
  • 消費者理解の専門家になるにはインサイトと向き合う必要がある
  • 多くの企業がインサイトを発見してイノベーションを起こしている
  • インサイトに正解はないが、顧客志向の発想に大きなヒントがある

ことを理解でき、従来のニーズ調査のさらに一歩先の視点で消費者理解を深めることができるようになりますよ。

インサイトという言葉が“ニーズ”と何が違うのかが素朴に気になる方や、ワンランク上のマーケティングを学んでいきたいという向上心のある方は、ぜひご一読ください。

目次

(1)インサイトの意味は「消費者が自覚していない隠された欲求」

マーケティングにおける「インサイト」(insight)とは、消費者が自分自身でも気づいていない欲求・心理・動機のことをいいます。

インサイトを理解すれば、より効果的に製品開発やマーケティングを行うことができます。事実、国内・海外の多くの企業は、現代のマーケティングの核心がインサイトの理解であるという認識のもと、熱心に分析をおこなっています。

消費者自身が自覚していないことを第三者が理解できるのか?」というもっともな疑問があると思いますが、インサイトを見抜くためには、消費者や消費者を取り巻く環境を深く理解し、言語化する思考力が必要です。

(1-1)「顧客インサイト」と「消費者インサイト」は同じ意味

論者によってはマーケティングにおけるインサイトのことを「顧客インサイト」と表現したり、「消費者インサイト」という言葉を使ったりします。どちらの使い方でも意味に違いはありません。当記事では、もっと簡単に「インサイト」と表現することにします。

(1-2)顕在ニーズとの違い

顕在ニーズは、製品やサービスの必要性をはっきり自覚している欲求のことです。

たとえばフィットネスジム。「痩せたい」「運動不足を解消したい」などが一例です。これらはすべて顕在ニーズといえます。その製品やサービスを購入することで得られる表面的な効果に言及した欲求が顕在ニーズといえますね。

一方で、インサイトは消費者自身が言語化できない隠された欲求ですから、言語化できる顕在ニーズとは明らかに違うことがわかります。

(1-3)潜在ニーズとの違い

潜在ニーズとは、製品やサービスがゴールではなく、製品やサービスを使用することによって別の目的を果たそうとする欲求のことです。これもまた、消費者の意識上に存在するニーズとして定義されています。

潜在ニーズは「ジムで身体を鍛えることでどうしたいのか?」を問うことで見えてきます。たとえば「ジムで身体を鍛えてモテたい」は潜在ニーズの典型でしょう。

では、潜在ニーズとインサイトの違いは何でしょうか。実はけっこう区別が難しいところです。なぜなら、「この欲求は消費者が自覚している」「あの欲求は消費者の無意識下にある」と明確に区別できないからです。

「私は女性にモテる身体づくりが目的でジムに入会しました」と消費者本人が正直に胸の内を明かせば、それは潜在ニーズと定義できます。

反対に「なぜ自分がここまで肉体改造に熱心なのか今までわからなかったが、指摘されて初めてモテたいという気持ちが原動力になっていると気づいた」と消費者が気づきを得れば、それはインサイトだといえます。

インサイトと潜在ニーズの境界については、論者によって程度が異なります。USJを立て直した伝説のマーケター森岡 毅氏は、インサイトのことを「指摘されてもなお本人が自覚できないくらいに深い欲求」と言っています。

(1-4)インサイトは消費者の思い込みの裏側にある

さて当記事では、インサイトを「消費者自身の思い込みによって隠された本当の欲求」と定義することにします。

なぜなら、多くの消費者は、世の中の常識や社会通念によって、“もっとこうだったらいいのに”という自分の本当の気持ちと向き合うことが妨げられているからです。

マーケターがその“妨げ”になっている思考の枠組みに気づき、取り払うことができたとき、はじめてインサイトが姿を表すのです。だから当記事では、「消費者自身の思い込みによって隠された本当の欲求」と定義して話を進めていきます。

(2)インサイトが重要な理由3つ

インサイトは簡単に見つけられるものではありませんが、人によっては「そこまでしてインサイトはマーケティングに必要なのか?」という疑問もあることでしょう。以下に、多くの有名企業がインサイトマーケティングに力を注ぐ理由について、3つの観点から説明します。

①「いいものが売れる」製品主導の時代が終わったから

“現代の日本企業はマーケティングが他国よりも遅れている”としばしば指摘されることがあります。USJを立て直した森岡氏は「日本企業は長期にわたって技術志向に偏りすぎ、マーケティングをちゃんとやってこなかったツケが回ってきた」と言います。

真偽はさておき、仮にそれが正しいとすれば、理由のひとつには「いいものをつくり続けて経済成長してきた」という過去の成功体験が考えられます。

たしかに、ものをつくれば売れるという時代はあったかもしれません。高度経済成長期のように、売り手が優位の市場が成立している場合は、製品やサービスの品質を追及するだけで事業が成長することもあります。これを経営学者のチェスブロウは「持続的イノベーション」と呼びました。

しかし技術は模倣されるものですし、その製品の価値は、社会変動や新しい製品の登場によってあっという間に陳腐化してしまいます。それに現代は、モノと情報であふれています。「情報の非対称性」(売り手と買い手で情報格差がある状態)が解消されることで、消費者はより賢く選択をおこなえるようになりました。

“いいもの”がたくさんあふれている時代は、消費者志向(カスタマードリブン)の発想でビジネスを展開しなければなりません。これを突き詰めていくと、けっきょくインサイトマーケティングに行きつきます。

②価値観が多様化しマスマーケティングが通用しなくなったから

まだ世界中が物質的に豊かではなかった時代、売り手が想定する消費者像は、非常にザックリとしたセグメントで理解され、均一的でした。下手をすると、まともに購買層の想定すらしていなかったかもしれません。

しかしそれでも通用しました。「つくれば売れる」時代でしたから、それが理にかなっていたのです。消費者を「大衆」という括りで捉え、ありとあらゆる消費者に対して大量生産・大量販売・大量プロモーションをおこなう手法を、マスマーケティングと呼びます。

少なくとも現代はモノであふれかえっています。この時代では、一つの製品であらゆる市場を満足させることができなくなりました。消費者のライフスタイルが一様でなくなったことで、価値観が多様化するとともに、消費行動の背景にある欲求が多元化しています。こうした背景を受けて登場したのがミクロマーケティングです。市場を細かくわけて消費者のペルソナを詳細に描き、それぞれのセグメントにリーチするように仕掛けていきます。

ミクロマーケティングの時代は、より深く立体的に消費者のことを分析し、彼らにとっての「価値」を創造しなければなりません。マーケティングに携わる者はみな、「消費者理解の専門家」であるべきなのです。すなわち、ミクロマーケティングとインサイトマーケティングは、ほぼイコールと考えることができます。

③イノベーションのチャンスがあるから

製品開発をしなくても、既存の製品で新規市場を開拓することができます。なぜなら「売り方」を変えるだけで、特定の消費者に提供できる価値が変わるからです。

その一例を示す有名な逸話があります。「極寒のアラスカで暮らすイヌイット族に冷蔵庫を売るには、“食べ物の温度を一定に保つ装置です”と言い方を変えて価値をアピールすればいい」――けっしてサギの話ではありません。これはマネジメントの父であるピーター・F・ドラッカーの著作でも紹介されている有名な話です。

カチコチに食べ物が凍ってしまうイヌイット族の人からすれば、凍らない程度に温度を保てる冷蔵庫は、生活を豊かにする製品となるのです。ドラッカーは、売り方を変えて消費者の価値に貢献することも立派なイノベーションであると言いました。このイヌイット族の寓話は、まさにインサイトの本質をあらわしているといえるでしょう。

同じ製品でも、顧客の置かれている現実や状況によって、「価値」となる部分は異なります。インサイトを見出すには、顧客の置かれている現実を知らなくてはなりません。消費者のインサイトを深掘りすると、既存の製品のみでイノベーションを起こすことができるのです。

(3)インサイトマーケティングの事例

以下に紹介するエピソードは、インサイトを掘り下げることの大切さや面白さを知ることのできる事例です。

①【GM】顧客が買うのはステータス

1930年代、GM(ゼネラルモーターズ)の事業部は、キャデラックを購入する消費者が「移動手段を買っているのではなくステータスを買っている」というインサイトを見出し、世界恐慌の中でも順調に業績を伸ばし続けた。

②【ジャパネットたかた】ビデオカメラは成長した我が子のために

子を想う親の気持ちを深く掘り下げ、「子どものためにぼくを撮ろう」という傑作キャッチコピーを生み出した。単純に「子どもの思い出を残したい」という顕在ニーズに訴求するのではなく、「将来成長した子どもが、若かった頃の親をみて喜ぶ姿」に訴求することで、ビデオカメラの売上を伸ばした。

③【ソニー】耳を傾けたのは若者の声なき不満

1950年代、当時のアメリカの若者は大型のラジオをかついでピクニックやキャンプに出かけていた。当時は「ラジオ=大きい」が当たり前だったので、人々の胸のうちには“あきらめ”があった。そこにメスを入れたソニーは、小型ラジオを販売して瞬く間にアメリカのラジオ市場を席巻した。

④【十勝バス】「乗り方がわからない」から乗らない人たち

バスを利用しない見込み客に「なぜ乗らないのですか?」と聞き取り調査を1000世帯に対しておこなったところ、「乗り方がわからないから不安」「どこで乗ってどこに向かうのかわからないから不安」という意外にもあっけない答えが問題の根幹だとわかった。その不安を解消する施策に力を入れると、40年ぶりに利用客数がプラスに転じた。

(4)インサイトの見つけ方6つ

以下に紹介するのは、インサイトを見つけるうえで役立つ方法です。ただし、これらはあくまでも選択肢や手段であり、「これさえ実行すれば確実にインサイトが見つかる」というわけではありません。

後述しますが、インサイトは簡単に見つかるものではなく、粘り強く顧客や世の中を分析し続けてようやく見えてくるものなのです。しかし、以下に示す方法を上手に使えば、インサイトを発見する近道になる可能性もあります。

①アンケート/インタビュー

アンケートおよびインタビュー調査は、聞き方ひとつで非常に有益な情報を得られる定番の方法です。インサイト調査の足固めとして、ぜひ実行してください。

ただし質問内容によって結果が著しく左右されるため要注意。「インサイトを掘り下げるために聞き出したいことは何か」を熟慮したうえで実施しましょう。

どんなことを訊ねるべきか迷ったときは、「顧客の現実」を深く掘り下げる質問を用意するのがおすすめです。

たとえば、自分の美容室のメイン顧客が子持ちの主婦であれば、その人たちがどんな生活を送り、どのような景色で現実を見、どんな悩みに直面しているのかを掘り下げるのです。顧客の現実を分析することにより、潜在ニーズよりもはるかに深い部分で抱いている欲求が見えてくるはず。それがまさにインサイトに他なりません。

メリット

  • 実行に移すのが比較的簡単
  • 低コストで何度でも実行可能
  • 顧客の生の声を収集可能

デメリット

  • 顧客が正直に答えてくれる保証はない
  • 質問を間違えると有益な情報を引き出せない
  • 結果が有意味であるかどうかをを判断しなければならない

②エスノグラフィー(行動観察調査)

もともと社会学や人類学で用いられている伝統的な分析手法です。エスノグラフィーは、特定の人々や集団を対象ユニットとし、アンケート・インタビュー・観察などを通じて何らかの理解や意味を得ようとする試みです。

定性的な領域で深い思考力が求められるため、難易度はけっして低くありませんが、インサイトを見出すうえできわめて重要な方法です。インサイトマーケティングを目指すなら、避けては通れない方法だといえます。

メリット

  • 観察対象が自覚していない本音や考えを見出すことができる
  • データで定量化できない定性的な領域で考察を深めることができる

デメリット

  • 観察者の主観が入り込みやすいため考察には思慮深さと慎重さが必要
  • 具体的な成果を定義しにくいため、調査の止め時をはっきりさせる必要がある
  • エスノグラフィーの方法に正解はないため、企画の質がシビアに求められる

③ソーシャルリスニング

SNSに投稿されているユーザーのリアクション・会話を収集し、そこからユーザーのインサイトを見出す方法です。現代では多くの企業が取り入れており、商品開発のヒントを得たり、リスク管理の強度を高めたりすることができます。

メリット

  • 企業が実施するアンケート調査よりも“リアル”に近い声を得られる
  • リアクションが早いため情報が新鮮

デメリット

  • 「SNSをよく使う」こと自体が特定のユーザー層であるため、投稿内容の偏りが懸念材料
  • 「声の大きい少数派」(ノイジーマイノリティ)の意見に惑わされるリスクがある
  • 本当に声を聞きたい人たちがSNSをあまり利用していない可能性がある

④コラージュエクササイズ

心理学実験でもよく知られている手法です。対象グループに数百枚の写真とテーマを用意し、テーマを連想するイメージに近い写真を自由に選んでもらいます。

メリット

  • 言葉で表現しきれない意識下のイメージを浮き彫りにできる

デメリット

  • どんな写真を用意するのか自体がバイアスになりうる
  • 手間とコストがかかる

⑤ポラロイド写真調査

2000年代初頭に「インサイト」という概念をいち早く日本に紹介した桶谷 功氏が勧める手法です。調査対象にテーマに沿った写真を自由に撮影してもらい、その写真にもとづいてインタビューを行い、気持ちを浮き彫りにします。

メリット

  • 他のアプローチにはない独自の気づきや発見を得られる

デメリット

  • 手間がかかる
  • 他の選択肢に比べて優先度がやや低め

⑥文章完成法

心理学で有名な分析手法です。「SCT」(Sentence Completion Test)とも呼ばれています。「私の母は____」「私は子どもの頃から____」といったように、空欄部分を自由に埋めていくことで、その人のものの見方・考え方・パーソナリティを浮き彫りにします。

メリット

  • 直感的な反応を得られるため回答者の見栄や嘘を排除しやすい
  • 質問の意図が曖昧なので回答内容にバイアスがかかりにくい

デメリット

  • 専門知識にもとづく実施が必要
  • テスト結果からどんな結論を導くのか判断が難しい

(5)インサイトを見つける際の注意点

インサイトは今後もますますマーケティングにおいて重要性を増してくるでしょう。現代の経営学はもとより、大手海外企業も顧客のインサイトの掘り起こしに熱心です。

しかしインサイトマーケティングは一筋縄ではありません。客観性のない「価値」(value)や「意味」(meaning)という抽象的な領域に踏み込むことになるからです。以下では、インサイトマーケティングを実践するうえで心がけるべき注意点を3つ紹介します。

①インサイトに正解はない

人の数だけ「現実」があります。住む場所、年齢、職業、ライフスタイルによって、見ている景色がまったく異なります。

顧客が何を見、何を感じ、何を思い、どんな問題と直面しているのか。それらをなんとか言葉にしてみようという試みが、インサイトです。あくまでもインサイトとは、観察者の洞察や気づきによって、これまで顧客が認識していなかった“空白”に色彩を与える行為に他なりません。

②データだけでは何も見えてこない

このように考えてみると、インサイトという不確かなものでマーケティングをするのに躊躇いをおぼえる方もいることでしょう。なんだか雲をつかむような話に聞こえてくるかもしれません。それよりも定量的なデータをかき集めて分析したほうが、いくらか含蓄のある結論を導けるような気がしてきます。

しかしデータというのは、諸刃の剣です。数字は客観的かもしれませんが、その数字を導き出すプロセスは人間の意思決定によるものだからです。データそれ自体は何も答えてくれません。データの価値を決めるのは人間です。データの有意味性と無意味性を判断するのは、わたしたち自身によるものですから、その時点ですでにバイアス(偏り)が介在しているわけです。

情報科学では「Garbage In, Garbage Out」という有名な戒めがあります。直訳すると「ゴミを入れるとゴミが出てくる」です。意味づけを間違えたデータ(ゴミ)を入力すると、価値のない結論(ゴミ)が産出されてしまうわけです。

もちろんデータはきわめて重要なファクターです。とくにWEBマーケティングにおいては、戦略と戦術の成果を測定するためになくてはならないものです。データなくして、WEBマーケティングは成立できないといっても過言ではないでしょう。

ようするに、データで語りえることと、データで語りえないことをしっかり区別をするのが大切なのです。効果測定や量的変化の観測はデータの仕事。インサイトを見出して言語化するのは人間の仕事。おそらくこの区別の本質は、データドリブンやAIドリブンの時代であっても変わらないと思います。なぜならビジネスの本質は“消費者ドリブン”だからです。

インサイトのヒントにデータを活用することは当然ありますが、データそれ自体は消費者の価値について何も語ってはくれません。この峻別さえ明確なら、データに振り回されることなく、真に集中すべきことに集中できるようになるはずです。

③考えることを諦めない

インサイトを見つけるにせよ、データを扱うにせよ、わたしたちは自分で考え、意思決定しなければなりません。今後はますますAIが人間の仕事を代替していくものと思われますが、“AIでもできる仕事”というのは、そもそも人間の意思決定がそこまで重要ではない定量的な作業であることが多いです。

AIのサポートにより、人間は単調な作業から開放されます。すると、わたしたちの仕事は、より知的な労働へと重心が移っていくことになります。作業から開放されることで、脳みそに汗をかく時間を増やせるというわけです。インサイトマーケティングを実践するには、根拠のない世界に意味づけを行う勇気が必要です。

(6)インサイトを見抜く力を養う思考3つ

「これをやれば必ずインサイトが見つかる」という定石はありません。しかし、インサイトを見出す思考力を養うことはできます。

①顧客の現実を知る

「自分の顧客だけを知っていればいい」と考える人がいます。しかし顧客のインサイトを見つけるには、顧客の人生を構成するありとあらゆるコト・モノにも目を向けなければなりません。

近所付き合いは?家事育児の分担は?生活費の構成は?平日の夜は何をしている?土日は家族とどう過ごしている?日常の楽しみは?どんな雑誌を買っている?どんなブランドが好き?車は何に乗っている?子どもの進学先は?子どもの習い事は?

顧客の見ている景色直面している問題――それが「顧客の現実」です。顧客の現実を知ることで、はじめて消費者が胸のうちに抱いている隠された欲求の輪郭が見えてきます。

②世の中の出来事にアンテナを張り続ける

世の中の出来事が、「顧客の現実」と密接に関わっていることは言うまでもありません。ガソリンや卵の価格変動にインサイトのヒントが落ちていることもあるでしょう。一過性の流行のように見える現象も、過去を振り返ってみれば、実は似たようなブームが起きており、その当時のマーケットを研究すればどんなインサイトにリーチしていたのかを理解でき、新製品のアイデアが生まれるかもしれません。

世の中は日々刻々と変化しています。世の中が変わるということは、消費者のニーズも変わるということ。ニーズが変わるということは、その背後にある暗黙の欲求――インサイト――にも変化が起こりうることを意味します。マーケターは過去の成功にすがるのではなく、明日の価値を創造しなければなりません。世の中の出来事にアンテナを張りめぐらせ、人々の価値観の機微に触れ、言語化する努力を続けていきましょう。

③顧客が満たされていない欲求は何かを探る

欲求の性質は、プラスの感情マイナスの感情かに大別できます。マイナスの感情、すなわち「不満」からもインサイトの重要な示唆を得ることが可能です。

先述したソニーの例がその典型です。1950年代は、「ラジオ=大型」が常識でした。それを疑う者はいませんでした。だから当時のアメリカの若者は、ガールフレンドとドライブに行ったり、仲間とピクニックに行ったりする際は、大きくて重たいラジオを担いでいたといます。アメリカを訪れていたソニーの社員は、そんな若者たちの日常をみて、「大きいラジオにうんざりしているに違いない」という彼らの“隠された不満”を見抜きました。

わたしたちの潜在的な不満は「常識」が隠れ蓑になっているだけで、実はたくさんあるのかもしれません。

たとえばあなたは、「傘」を不便だと思ったことはないですか? 「いやいや、雨の日に髪の毛や服がずぶ濡れにならなくて済むんだから、便利じゃないか」と考える人もいるでしょう。

しかし、よく考えてみてください。傘はかさばるし、片手がふさがるし、濡れたら持ち運びが面倒だし、人込みでは歩きにくいですよね。よく考えてみると、傘に対する不満がたらたらと出てきます。これこそが、「雨が降ったら傘をさす」という常識の裏に隠れている不満なのです。

煎じ詰めていえば、「実はわたしたちは傘をさしたくてさしているんじゃない」というのがインサイトになるわけですね。

顧客はドリルを求めているのではなく、穴を欲している」というマーケティングの金言にしたがえば、ようは雨に濡れないことが顧客にとっての最上の価値なので、あなたがもし、「傘をささなくても濡れなくて済む製品やサービス」を生み出すことができれば、インサイトマーケティングで成功を収めることができるかもしれません。たとえば、「雨の日に割引になるタクシーアプリ」なんてどうでしょうか?

さいごに:顧客志向の発想がインサイトの突破口!

要点まとめ
  • インサイトの意味は「消費者が自覚していない隠された欲求」

    マーケティングにおける「インサイト」(insight)とは、消費者が自分自身でも気づいていない欲求・心理・動機のことをいう。

  • インサイトが重要な理由3つ

    ①「いいものが売れる」製品主導の時代が終わったから
    ②価値観が多様化しマスマーケティングが通用しなくなったから
    ③イノベーションのチャンスがあるから

  • インサイトマーケティングの事例

    ①【GM】顧客が買うのはステータス
    ②【ジャパネットたかた】ビデオカメラは成長した我が子のために
    ③【ソニー】耳を傾けたのは若者の声なき不満
    ④【十勝バス】「乗り方がわからない」から乗らない人たち

  • インサイトの見つけ方

    ①アンケート/インタビュー
    ②エスノグラフィー(行動観察調査)
    ④ソーシャルリスニング
    ⑤コラージュエクササイズ
    ⑥ポラロイド写真調査
    ⑦文章完成法

  • インサイトを見つける際の注意点

    ①インサイトに正解はない
    ②データだけでは何も見えてこない
    ③考えることを諦めない

  • インサイトを見抜く力を養う思考3つ

    ①顧客の現実を知る
    ②世の中の出来事にアンテナを張り続ける
    ③顧客が満たされていない欲求は何かを探る

今回は「マーケティングにおけるインサイトとは?」をテーマに、インサイトの意味や見つけ方をはじめ、消費者のインサイトを見抜くために必要な視点について論じました。

マーケターは消費者理解の専門家でなければなりません。消費者理解の専門家を目指すのであれば、否が応でもインサイトと向き合うことになります。

なによりインサイトは、イノベーションの絶好の機会をもたらします。既存製品の新しい武器を見つける、新製品の方向性を定める、新規の市場開拓を発見するなど……インサイトはまさに、顧客志向の発想に立つことで得られる、誰にでも開かれたイノベーションのチャンスといえるでしょう。

ただし、インサイトの道のりは平坦ではありません。常識や思い込みのヴェールに隠された消費者の本当の欲求や気持ちを見出すには、ときにはスマートな発想で、ときには泥臭く、またときには大胆に、自分の足を使って調査を深めていく必要があります。

分析できるほどはまだわからない。しかし、「必ず見つけ出す。外に出かけ、観察し、質問し、聞いてくる」といわなければならない。予期せぬものは、通念や自信をうち砕いてくれるからこそイノベーションの宝庫となる。

(ピーター・F・ドラッカー『イノベーションと企業家精神』より)

マーケティングの本質は人間です。インサイトは、まさにマーケティングの本質に近い部分なのかもしれません。答えがないからこそ、マーケティングはいつでも刺激的で面白いのです。

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