この記事は、「集客とマーケティングは別物では?」「マーケティングは難しそうだから集客のテクニックだけ知りたい」と考えているあなたにこそ読んでほしい内容となっている。
集客とマーケティングの区別が曖昧だったり、それぞれが別物だと考えたりすると、事業はあっという間に黄色信号に陥る。
誰もが売上をアップさせたいと考えている。当然のことである。だからみな、「集客」に目が行きがちになる。しかしそこで焦ってはならない。集客で成功を収めて売上の増大につなげるには、集客の前段階である「マーケティング」が欠かせないのだ。
集客ばかりに目を奪われていると、流行のSNS媒体に便乗したり、営業マンの口ぶりに乗せられて大金をかけてWEBサイトを新しくしてみたり(しかもWEB集客にはつながらない)、コンサルに事業をかき回されてしまったりする。なぜそんなことになるのかといえば、集客数という表面的な現象に囚われているからだ。
たとえばSNS集客は、ケースバイケースで有効だが、そのSNSがサービスを終了すると何も残らない。もっといえば、SNSで集客したユーザーが本当にあなたの求める理想の見込客であるとも限らない。
小手先のテクニックや、流行に乗ったやり方に乗るような集客方法を続けていても、真の顧客は根付かない。
では、どうすれば、本当に自分たちに意味のある顧客を集客することができるのか? その問いの先にあるのが、「マーケティング」なのである。
この記事では、あなたが集客とマーケティングが表裏一体であることを心から理解し、マーケティングこそ集客の成功に続くローマの道であると確信し行動できるようになることを願って、詳細に解説していく。
残念ながら、この記事では書ききれない内容がまだまだあるが、本当に大事なことを伝えるために、マーケティングを実践する原理原則に絞り込んだ。「マーケティングとは何か?」と迷ったときに、いつでもこの記事に立ち戻れるような構成にしたかったからだ。
記事の最後には、解体寸前だったキャデラック事業を復活させた有名なマーケティングの事例も紹介している。まずそこを読んでからのほうが、記事がスッと頭に入るかもしれない。ぜひ読んでみてほしい。
1集客とマーケティングの違いは「前提条件と仕組み」
まず結論をいうと、集客とマーケティングはコインの表と裏の関係であり、切り離せない。
集客 | 顧客を集めること。事業を成立させる前提条件。集客がなければ売上をつくれない。 |
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マーケティング | 顧客ニーズを明確にし、顧客ニーズに寄り添った商品/サービスを提供することで、売れる仕組みをつくる活動。換言すると「自分たちが売りたいものを売るのではなく、顧客が求めているものを売るための活動」。 |
以下に、集客とマーケティングの違いについて具体的に解説しよう。
1-1集客とは事業の目的を達成する「前提条件」
集客なくして売上なし。「集客」とは、読んで字のごとく、“顧客を集める”こと。意味はいたってシンプルだが、事業の生命線であるから、きわめて重い意味をもつ。
どれだけ事業のミッション(使命)が素晴らしくとも、どれだけ素晴らしい商品やサービスを提供できる準備があっても、そもそも顧客が集まらなければ、すべてが絵に描いた餅になり、事業が成り立たず、時を待たずして倒産の憂き目に遭う。
したがって、あなたが事業を営む際には、その事業を成立させる大前提として、集客を行わなければならない。あまりに当然すぎるが、集客と深い関係のあるマーケティングに目を向けると、かなり印象が変わるはずだ。
1-2マーケティングとは「顧客が自然に集まってくる仕組みづくり」
どうすれば集客数を増やすことができるのか? どこに誰を連れてくるのか? そもそも、誰が見込客なのか? ……その問いの先にあるものが「マーケティング」だ。
マーケティングの理想は販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、顧客に製品とサービスを合わせ、自ら売れるようにすることである。
『マネジメント』より
この言葉は、コトラーと並ぶマーケティングの泰斗、ピーター・F・ドラッカーのものである。
顧客が本当に求めているものを提供しているのであれば、わざわざセリングしなくても、顧客は自ら買い求めてくるはずである――とドラッカーは考える。
つまりドラッカーに言わせれば、集客を行うということは即マーケティングを行うことと同義なのである。むろん、このことはドラッカーだけでなく、現代のマーケティング論では当然のことと考えられている。マーケティングの本質を鋭く定義した先駆者が、ドラッカーやコトラーだったわけである。
マーケティングは集客数を大きく左右する。マーケティングがおろそかだと、集客は増えない。マーケティングを間違えると、集客は減る。マーケティングが適切であれば、集客はプラスの変化となって表れる。
したがって集客とマーケティングは別物どころか、コインの裏と表だということが理解できよう。「マーケティングはまったくダメでしたが、集客はうまくいきました」ということは、まずありえない。仮にそうだったとしたら、意図せずマーケティングが実行できていたというだけである。あるいは、そもそも見当違いの顧客を連れてきている可能性もある。とくにWEB集客ではそういったバッドケースは珍しくない。
どちらにせよ、偶然に頼るマーケティングには価値がない。ローマは一日にしてならず、マーケティングなくして集客は成り立たず、が原理原則である。
2中途半端なマーケティングは逆効果になる
マーケティングは顧客にとっての価値を考えるところからスタートしなければならない。これは絶対だ。なぜなら、あなたの商品やサービスの価値を判定するのは、顧客だからだ。そして多くの事業者は、どんな形であれ、マーケティングに関わっている……しかし集客にとって、それが一番危険なのだ。
2-1実は誰もがマーケティングに首を突っ込んでいる
どんな集客方法であれ、最終的にはマーケティングに行きつく。そうならざるを得ない。チラシ配り、つり革広告、テレビCM、SNS、WEB広告……どんな集客のかたちであれ、その先には必ず「見込顧客」がいるわけだから、どうあがいても「顧客ニーズに寄り添った商品/サービスを提供して売れる仕組みをつくる」という構造からは逃れられない。
たとえば「埼玉の新築マンションのモデルルームを周知したいので、若いカップルが多く住む阿佐ヶ谷や吉祥寺にチラシをポストする」という戦略を立てるのは、立派なマーケティングである。ただし、広告やポスティングなどの認知拡大の活動は、マーケティングの一部であって、すべてではない。
ここまでの話を読んで、「他に比べれば、うちの会社は曲がりなりにもマーケティングはやってきた」と安心する人もいるかもしれない。だが油断は禁物である。一言でマーケティングとはいっても、程度の差がある。
ある人は、代理店に広告を丸投げしただけなのに、「マーケティングをやっています」という。またある人は、「うちは営業がいるから大丈夫」「マーケティング部があるから任せていれば大丈夫」という人もいる。
そもそもマーケティングは、会社の在り方を左右する「戦略」そのものなので、社内の一部の人間が知っていればいい、では済まされない。
経営の基本は「組織は戦略に従う」である。
では、戦略は?「戦略は顧客に従う」。これこそまさに、マーケティングが「自分たちが売りたいものを売るのではなく、顧客が求めているものを売るための活動」といわれるゆえんである。
それゆえ、顧客理解を間違えると、誤った戦略を導くことになる。戦略を誤るということは、最悪、組織を崩壊へと導いてしまう。
もうおわかりだろう、中途半端なマーケティングほど恐ろしいことはないのだ。存在しない幻の顧客のために、貴重な経営資源と時間を費やすことになるのだから。
2-2「売りたいものを売る」はマーケティングの唯一の不正解
繰り返すが、マーケティングの原理原則は、「顧客起点に立った商品/サービスを提供する」。たったこれだけなのだ。顧客は何に価値を感じているのか? それについて考え抜き、試行錯誤を繰り返して商品やサービスを開発する努力は、いつか実る。なぜならマーケティングは究極的にいうと、自社の強みを活かして顧客に貢献できることを探す旅だからだ。
マーケティングにおける唯一の不正解は、「自分たちの売りたいものを売る」だ。顧客に価値のあることは何なのかを追求せずに、自分たちの都合を押し付ける事業を続けていると、結果的に会社そのものを衰退させてしまう。利益とは、顧客を満足させた証である。顧客価値の実現(満足)に貢献しない事業には、そもそも誰もお金を払ってくれない。
実は、多くの企業が、意図的であれ無意識的であれ、自分たちの売りたいものを売ろうとしてしまっている。中途半端にマーケティングをしていると、みなそうなってしまうのだ。とくに我が国日本は、その傾向が強いと言われている。これは昨今のマーケティング界隈でしばしば指摘されていることだ。
いささかショックな事実かもしれない。だがそれは、戦後に奇跡の復興を遂げた日本だからこそ抱える、固有の問題なのだ。
2-3「日本はマーケティングがヘタ」と言われる理由はモノづくりが得意すぎたから!?
ある有名な日本人マーケターは、日本は海外に比べてマーケティングがまだまだ未熟である、ときっぱり言い放った。ただしそれは、日本の可能性を心から信じているからこその指摘であった。
これにはおそらく、高度経済成長期以降、日本が「質」で世界と渡り合ってきた輝かしい過去が関係している。戦後日本は実直なまでに、いいものを追求し続けた。気づけば日本企業は、“いいものをつくれば売れる”という製品志向の発想が根付いてしまったのかもしれない。
それがいつしか“神話”となり、自国の独自性を表現する際に“ものづくり大国にっぽん”というフレーズが常套化してしまった。耳障りがよく、気持ちよくなるフレーズだ。それゆえ、多くの人が疑いを持たなくなってしまったのかもしれない。
「自分たちがいいと思ったものを売る」「作ってから売る相手を考える」といったような、企業側(作り手)の都合で考えることを「プロダクトアウト」という。その発想が通用した時代もあったのかもしれない。しかし時代は変わる。生活の質も変わる。競合の技術力もあがる。したがって人々の価値観も変わる。そんな状況にあって、プロダクトアウトの発想のままでいては、世界でも通用しなくなってしまうだろう。
品質がよければ売れる、美味しいものをつくれば客はかならずつく……誰もがそう信じたい。
しかし現代においては、もはやどの企業もいいものをつくっているし、美味しいものをつくっている。それに、プロが想像している以上に、実は顧客は品質の違いを理解できないのだ。
これは別に、“大衆は良し悪しがわからない”と批判したいわけではない。そもそも、顧客は商品/サービスそれ自体を目的にしていないのだ。だから良し悪しなど、二次的な基準にすぎない。では顧客は一体何を求めているのか?ドラッカーは次のようにいう。
顧客の関心は「この製品は自分のために何をしてくれるのか」だけである。
『創造する経営者』より
顧客は製品を買っていない。欲求の充足を買っている。彼らにとっての価値を買っている。
『マネジメント』より
まだまだ日本は、「質」で世界と勝負できる水準にある。というより、依然として群を抜いた地位を持っている。だが、「質」を追求する努力を、どんな顧客のために向けるのかがわからなければ、あらゆるエネルギーが発散し、成果もあがらない。だからこそ、顧客にとっての価値を追求し、顧客に貢献するために事業を行う「マーケットイン」の発想が、今後の日本の、新たなフロンティアとなるのだ。
強みは過去にあり、行動は現在にあり、機会は未来にある。
日本のものづくりに対する技術と情熱は、先人が積み重ねてきた過去である。
マーケティングは、顧客価値を追求するために現在(いま)取り組むべき行動である。
イノベーションは、過去と現在をクロスさせることで生まれる新しい差別化、新しい貢献の機会(チャンス)である。
3マーケティングの鉄則は「顧客価値」からスタートすること
ではマーケティングを実際に行うには、どうすればいいのだろうか。それは、「顧客への貢献」を第一に考えることから始まる。貢献……抽象的な言葉に思われるかもしれない。だが現代で活躍するマーケターの多くが、まさに「貢献」という言葉をキーワードと考えているのだ。
では顧客への貢献とは? それは、顧客が本当に欲しているものを理解した商品やサービスを提供することである。それが顧客への貢献なのだ。企業は、顧客に何らかの貢献を果たすことで存在を認められている。顧客の満足に貢献したとき、はじめて対価として報酬が支払われる。
「われわれの事業は何か」に答えを出すには、「われわれの顧客は誰か。どこにいるか。彼らにとっての価値は何か」を考えなければならない。事業を決めるものは世の中への貢献である。貢献以外のものは成果ではない。
ドラッカー『マネジメント』より
あらためてマーケティングを定義すると、次のようになる。すなわち「顧客ニーズに寄り添った商品/サービスを提供して自然に顧客が集まって売れる仕組みをつくること」。わかりやすく言い換えると、「自分たちが売りたいものを売るのではなく、顧客が求めているものを売るための活動」である。
つまり、マーケティングの鉄則は、「顧客にとっての価値は何か」を考えることからスタートすることである。ただし見込客がまだわからない場合は、当然、「顧客は誰か」という問いから始めなければならない。
4「顧客ニーズに寄り添う」ことと「顧客の言われた通りにすること」はまったく違う
ここで重要な問いが浮上する。すなわち、「顧客ニーズに寄り添うとは、つまり顧客の言う通りのものを提供することなのだろうか」と。
まず結論をいうと、顧客の言う通りのものを提供することは、顧客ニーズに寄り添うことを意味しない。しばしば重なる部分はあるが、常にイコールではない。
4-1まずは「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」を区別しよう
どういうことなのだろうか。ポイントは、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」を区別することである。
顕在ニーズ
顕在ニーズとは、表面的な欲求のことだ。「ビールが欲しい」「ジムに通いたい」「新車がほしい」など、顧客本人が自覚している欲求のことである。
当然、顕在ニーズは、周囲の目から見ても明らかに理解できる。アウディのディーラーで車を買った人は、アウディの車を欲しいから買ったのだ。それにお金を払う価値があると判断したから、ローンを組んでくれたのである。購入者に直接聞かずとも、その事実は自明である。当たり前すぎて陳腐に思えるが、「表面的な欲求」という点でいえば、まさしくその通りなのである。それが顕在ニーズなのだ。
潜在ニーズ
では、彼はなぜアウディの車を欲しくなったのだろう。欲しいと思ったきっかけは何だったのだろうか。他の高級車ではなく、あえてアウディを選んだ理由は? どのような心境に至り、数ある車の中からアウディの車を欲したのだろうか。
不思議なもので、表面的な欲求(顕在ニーズ)に対して「なぜ」を投げかけた途端、問いが深遠になる。実はその「なぜ」の先にあるものが、目に見えない本質的な欲求「潜在ニーズ」である。キーポイントは“本質”という言葉だ。
潜在ニーズとは、目には見えないが、その人に行動を起こさせる“心のトリガー”だ。マーケティングの世界ではこれを「消費者インサイト」と呼ぶこともある。
かつて哲学者ウィリアム・ジェイムズは、人間は無味乾燥な世界に「意味」や「価値」を与えて活動しているといった。目に見える現象として立ち現れてくる人間のあらゆる活動/行為/行動は、心のなかに描かれた意味や価値が顕在化したものなのだ、と。
すなわち顧客のあらゆる購買行動も、目に見えない本質的な欲求が顕在化したものにすぎない。だから顕在ニーズと潜在ニーズは、コインの裏表なのである。集客を成功に導くマーケティングは、顧客をじっくりと観察し、ときには生の声を拾いながら、潜在ニーズを鋭く言語化することから始まるのだ。
4-2顕在ニーズに囚われていると真の欲求に気づけなくなる
「顧客ニーズに寄り添うとは、つまり顧客の言う通りのものを提供することなのだろうか?」
その疑問には、「顕在ニーズに応えることが売り手の役割だと誤解した場合、顧客の言いなりになることが正しいと勘違いしてしまう」という回答を与えることができる。
もちろん、顧客の顕在ニーズに応えることは、売り手の最低限の責任である。アウディが欲しくて正規ディーラーに行ったのに、なぜかプジョーが売られている……などという事態は、顧客の期待を明らかに裏切ることになる。
もう少し具体的な例を出そう。
もし、ナチュラルチーズ専門店の顧客が、「試食もしてほしいなあ」と要望を言っていたら、やはり売り手はちゃんと試食を展開するべきだ。なぜならその顕在ニーズの背後には、チーズを体験したい、味が本当に自分に合うか不安、といった種々の本質的な欲求があるからだ。試食体験が、顧客の本質的な欲求に応えることができるなら、このとき、顕在ニーズ(試食がしたい)に応えることと、本質的な欲求を満たすことが一致する。
では、「美味しいカレーが食べたい」という顕在ニーズに対して、あなたはどう考えるだろうか。
「美味しいカレーが食べたい」と顧客はいう。なるほど、それは確かである。「まずいカレーが食べたい」などと、誰が思うだろうか。しかしだからとて、「美味しいカレーを極めれば、顧客は食べに来てくれる」と考えるのは、甚だ危険である。
“美味しい”の絶対基準はないし、味の感じ方、好みは千差万別である。そもそも、どのカレー屋だって、自分たちなりに美味しいカレーを研究しているわけだから、すでに「いかに美味しくするか」という領域で勝負をする時点で、有象無象のカレー屋に埋もれていく運命にある。
北海道に、看板を出さずとも連日連夜客足の絶えない居酒屋がある。その店主は「絶対味覚なんてものはない」と断言する。つまり、ある程度のレベルになってしまえば、顧客が味の良し悪しの違いを理解するのは非常に難しくなるのだ。
店主は、美味しい料理を提供することは当たり前として、それ以上に大事なのは、お店での体験や、そのお店を利用することによって得られるベネフィットだと考えている。
この店主はかつて、「有名ホテルの元シェフによる、選りすぐりの食材を使った、高級料亭に負けない本格居酒屋」をコンセプトに店を出したことがあるという。料金をあえて高めに設定したのは、お酒や料理の“本物の味”をわかる層に刺さってほしいからだった。実際この店主は、仕事柄、そうした人々の生態を熟知していたのだろう。
うまくいくはずだった。
だが、結果は大失敗。店主はそのとき、顧客価値の想定と現実に大きなズレがあったことに気づいた。
店主は「本物の味を楽しみたいという需要があるはずだ」と見込んでいた。しかし当時の見込顧客たちは、「人に紹介できる有名店を知りたい」が本質的な欲求だった。つまり、「本物の味を楽しむ」ことよりも、「有名店を知って人に紹介できるようになる」というステータス性を重視していたのだ。
このように、目に見える表面的な欲求(顕在ニーズ)にとらわれていると、見当違いの努力をすることになってしまいかねない。
顧客は製品を買っていない。欲求の充足を買っている。彼らにとっての価値を買っている。
『マネジメント』より
やはりこのドラッカーの言葉が浮かぶ。
目に見える表面的な欲求(顕在ニーズ)は、本質的な欲求(潜在ニーズ)の表象にすぎない。だから、顧客が求めているものの奥底には、どんな本質的な欲求があるのかを洞察することが欠かせないのである。
4-3「顧客はドリルではなく穴が欲しい」がマーケティングの鉄則と心得よ
以上、長くなってしまったが、顕在ニーズ(表面的な欲求)と潜在ニーズ(本質的な欲求)の違いと、その区別の重要性について解説した。
あなたがこれからマーケティングを実行して集客を成功させたいなら、顕在ニーズの背後に隠れている潜在ニーズを浮彫にするために、最大限の努力を払うべきである。ここに時間をかけなければ、すべて中途半端な結果になってしまうだろう。
顕在ニーズと潜在ニーズに関する議論の核心は、マーケティングのとある金言に整理できる。すなわち、
「顧客はドリルではなく穴が欲しい」。
これである。もともとはアメリカの経済学者セオドア・レビットの言葉だ。
People don’t want to buy a quarter-inch drill. They want a quarter-inch hole!
(人々は1/4インチのドリルが欲しいのではなく、1/4インチの穴が欲しいのだ!)
非常に示唆に富むレビットの金言において、「穴」をどう見立てるかが重要である。私はもちろん、次のように考える。
- 穴…潜在ニーズ。本質的な欲求。実現したい価値。ゴールそのもの。
- ドリル…顕在ニーズ。価値を実現する手段。ゴールするための方法。
ドリルが売れているのは、「穴が欲しい」という本質的な欲求が満たされているからであって、顧客にとってドリルが理想のゴールとは限らない。したがって、「穴が欲しい」という欲求に応えうる他の手段は、すべてドリルの競合と考えることができる。
あなたの事業がドリルの販売だったとしよう。もしあなたが顕在ニーズに目をとらわれていたら、「もっといいドリルをつくろう!」と考えるかもしれない。これは「類似品型のイノベーション」といって、既存製品をブラッシュアップする方法であり、決して間違いではない。
だが、いいドリルをつくり続けることには限界がある。なぜなら、あなたのつくったドリルに価値があるかどうかは、最終的に顧客が決めることだからだ。
これまで顧客があなたからドリルを買っていたのは、単純に、ドリル以外の手段や可能性を知らなかっただけかもしれない。ドリル以外の可能性が存在し、そちらを検討したほうが有益だと判断したならば、顧客はあっさりとそちらに移るだろう。
5マーケティング思考が身に付く7つの問い
これまでの議論の内容をふまえて、マーケティングの核心を7つの問いに凝縮した。以下の問いに答えられるようにすると、「いま自分の会社に何が不足しているか」「理解を深め切れていないところはどこか」「これまで当たり前だと思っていたが、実は違うかもしれない」といった発見や気づきを得られるようになるだろう。
- あなたの想定する見込顧客はどんな人ですか?
- その顧客は何に価値を感じてあなたから購入すると思いますか?
- つまりあなたの事業は顧客にどんな貢献をしていると言えますか?
- 競合と比較したときに強みだといえる部分はどこですか?
- 競合と比較したときに弱みとなる部分はどこですか?
- 商品/サービスのこだわりは何ですか?
- そのこだわりを追求するためにどれだけのことをしていますか?
6集客を成功に導くマーケティングの実践方法3選
マーケティングには「これを実行すれば絶対にうまくいく」という方法はない。ただ一つ言えるのは、マーケティングは顧客からスタートせよということだ。何度強調してもしすぎることはない。顧客起点で考え抜くことが、マーケティングの王道なのである。戦略は顧客に従うのだ。顧客の解像度が曖昧だと、戦略も曖昧になり、意思決定がブレて、成果があがらない。なにより、貴重な経営資源と時間を、無駄にしてしまう。
以下では、顧客起点で考える際の重要なポイントを3つに絞って紹介しよう。
①顧客価値を明確にする
顧客価値(本質的な欲求)を理解することで、ようやく自社がとるべき戦略が見えてくる。顧客にとっての価値を言語化するには、次の方法を推奨する。
既存顧客に聞く
既存顧客は情報の宝庫である。あなたの製品・サービスをすでに購入してくれた人がいるなら、聞かない手はない。ただし陳腐な質問だと、顧客理解を深めるどころか、誤った顧客像を描きかねないので要注意。
非顧客(ノンカスタマー)に聞く
あなたの商品やサービスを「買っていいはずなのに買わない人たち」「選んでくれない人たち」に、勇気を出して聞いてみるのもいいだろう。彼らの声のなかに、あなたがまだ発見できていない顧客価値があるかもしれない。あるいは、あなたが顧客価値だと思っていたことが、実はそうではない可能性について気づかせてくれる。
「行動」から本当の欲求を見出す
スタンフォード大学の研究者は、人が「するといっていること」と「実際にすること」の間には大きな違いがあると強く主張した。「欲求は、人々の言葉ではなく、行動で判断するべきだ。すべてのテストに人の動きを組み込むのだ」と。大事なのは、仮説にもとづくテストだ。たとえば、開発した商品やサービスのランディングページをつくって、顧客の反応を確かめてみることもできる。
②自社の強みを見つけて競合との差別化を図る
自社の強みは、「相対的な強み」と「絶対的な強み」に区別できる。創業から現在に至るまでの仕事・実績・顧客からの評価などを棚卸してみよう。強みを見つけるヒントは、過去にあるのだ。
相対的な強み
競合と比較したとき、「他社にはできないが、自社にはできる」「他社にはないが、自社にはある」と言えるものが、相対的な強みである。相対的な価値に着目していると、イノベーションのチャンスを見出すこともできる。ただし時代の変化によって強みが強みでなくなることもある。油断せず更新し続けることが大事。
絶対的な強み
他社には再現できないこと・もの。すなわち、人そのもの、社風、歴史、理念、ミッション、想い、こだわり、その背後にあるストーリー、顧客の声、特殊技術(マネされない自信があれば)などを指す。
とくに、創業/商品開発/顧客関係などに関わるストーリーは、自社のブランディングを図るうえで重要である。ストーリーは、誰にもマネできない。それはあなただけの体験なのだから。「うちにはそんな大層な話なんてないよ……」と自信を持てない方も、次の問いかけをしてみると、意外にも顧客を惹き込むストーリーがつくれてしまうものである。
- 美味しいことよりも、美味しさを追求するためにどれだけのことをしてきたのか
- 品質が高いことよりも、品質を追求するためにどれだけのことをしてきたのか
- 多くの人に選ばれている事実よりも、顧客のためにどれだけ尽くしているのか
- 事業のミッション(使命)が何であるかよりも、ミッション(使命)に目覚めるきっかけとなった体験は何なのか
ただし、ここで注意が必要だ。絶対的な強みがどれだけ優れていても、顧客にとっての価値が曖昧だと、ほとんど効力を発揮しない。絶対的な強みとは、顧客価値は何なのかが明確になったとき、商品やサービスを提供する正統性を担保したり、競合と差別化の難しい状況下で最終的に選ばれる理由になったりする、というものなのだ。
③必ずテストマーケティングをする
私見では、マーケティングで失敗する最大の理由は、「仮説と検証のプロセス」がすっぽり抜け落ちてしまっている場合だ。「これはいい」と思ったアイデアに固執したり、失敗を恐れたり、完璧主義だったり、うまくいっているかどうか評価する軸が曖昧だったりするとき、集客は失敗する。
実際にテストをしてみないかぎり、あなたの追求が成功するかどうかは、多かれ少なかれ運まかせになってしまう。(中略)市場の要求も検証せずに、解決策を見つけようと膨大な時間と金と時間を浪費しているのだ。
『スタンフォードの人気教授が教える 「使える」アイデアを「無限に」生み出す方法』より
テストを行う勇気を持つためには、わたしたちの知性の限界を心に刻む必要がある。すなわち、「頭の中で考えたことはたいてい間違っている。アイデアが有効かどうかは、実際に試したときにようやくわかる」と。
だからアイデア一つ一つは「仮説」であり、それがうまくいくかどうかを教えてくれるのは、実際の顧客の反応なのだ。
かのエジソンは、自分に失敗は存在しないと豪語した。なぜなら、これまでの実験は、うまくいかない方法を発見したという“成功”だったからだ。
ではテストマーケティングの方法は? それはあなたのアイデア次第だ。実験アイデアに応じて使う器具や装置が異なるように、あなたがどんな顧客を想定してどんな反応を期待するのかによって、テストの方法はまったく異なる。
ただ今日おいて、必ず選択肢に入れたほうがよい方法は存在する。それがWEB上のテストである。自社サイト・ランディングページ・SNS・YouTubeは、顧客からすぐに反応を得られる最良の実験場である。しかもリスクがほとんどない!新しい商品開発をしたいなら、試しにランディングページをつくって反応を確かめてみてもいい。スタンフォード大学が紹介した事例のなかには、実際にそんな方法で「この新商品はいける」と確信したエピソードもあった。
打つ手は無限である。積極的にチャレンジしていこう。
目に見える現象に囚われるな!本質を見極める「洞察力」を磨こう
最後に、筆者が好きなマーケティングの古典的な事例を紹介しよう。マーケティングの本質が詰まった素晴らしいエピソードだ。
1929年、人類が初めて経験する未曽有の世界恐慌が起こった。そんな危機のさなかで、ドイツの片田舎で育った機械工のニコラス・ドレイシュタットは、絶賛大不調中のキャデラック事業を引き継ぐことになった。のちにキャデラックを救った男として後世に語り継がれる人物である。
ドレイシュタットに経営経験はなく、一介のアフターサービス部門の責任者に過ぎなかった。おそらくGMアルフレッド・スローンの心のなかでは、「キャデラック事業は解体」がほぼ結論として決まっていたのだろう。いまさら誰がキャデラック事業を引き継ごうとも、結果は同じことだったのだ。
しかしドレイシュタットは、スローンやブラウンら経営陣の前で、突如「一年半でキャデラック事業を立て直す」と宣言した。わずか10分のプレゼンだったという。しかし、キャデラック解体はもはや必至であり、ものの道理であると踏んでいたスローンたちからすれば、青天のへきれきだったに違いない。
ドレイシュタットには何が見えていたのだろうか?
彼は、顧客にとってキャデラックという車は、単なる移動手段ではなく、ステータスの象徴として価値を持っていると洞察したのだ。誰にとって? それは、富裕層の黒人たちだった。
当時、GMは「黒人には売らない」という方針だった。したがって、キャデラックを購入する人たちは白人ばかりだった。しかし意外なことに、アフターサービスにやってくる顧客のほとんどが黒人だった。
この事実は何を意味するのだろうか? 実は、富裕層の黒人たちは、白人名義でキャデラックを購入していたのだ。それゆえ、皮肉なことに、キャデラックの“真の顧客”は白人ではなく、「キャデラックを成功の象徴として価値を見出す富裕層の黒人」だったのである。
ドレイシュタットはいう。
「我々の競争相手はダイヤモンドやミンクのコートである。顧客が購入するのは、輸送手段ではなくステータスだ」
キャデラックのアフターサービス部門として働いていたドレイシュタットは、日常の出来事を現象として深く洞察し、本質を見抜いていた。顧客は誰か、顧客にとっての価値は何か。ドレイシュタットには、それがわかっていた。だから彼は、スローンらの前で「キャデラックを成功のステータスとしてブランディングすれば売れる」と力強く説得できたのだ。
ドレイシュタットの物語は、マーケティングの原理原則を見事に表している。目に見える現象の奥底にある本質を洞察し、顧客が本当に実現したいと望んでいる価値を見出す。それこそがマーケティングであり、集客を成功に導くローマの道なのだ。
集客とマーケティングは、切っても切り離せない。集客の成功とはつまり、マーケティングの成功である。マーケティングの失敗とは、同時に集客の失敗を意味する。
「なぜ、顧客はそれを買ったのか?」
まずはこの問いから始めてみよう。それが集客を成功に導く大切な第一歩である。
マーケティングは一人では成しえない。チーム一丸となるために必要なノウハウをあなたに。
あなたが思い浮かべる「見込客」は、本当にあなたの製品を必要としているだろうか?
「自社の想定する見込客が、実は見込客ではなく、もっと別のところに理想の顧客がいた」
「既存顧客に価値を提供できていると信じていたが、実は顧客は別の部分に価値を感じていた」
マーケティングでよくある話である。企業は、自社の製品・サービスのプロフェッショナルである。しかしプロフェッショナルであるがゆえに、時として、顧客の顔が見えなくなってしまうことがある。
自分たちが当然視していること(当たり前すぎて陳腐に思っている)ことが、実は顧客にとっては何よりの価値であるという皮肉も、けっして少なくはない。
株式会社エレメントは、WEBマーケティングに精通したプロ集団。ドラッカーをはじめとするマーケティングの実践知をフル活用し、顧客起点の目線で、あなたの製品・サービスを必要とする顧客を見つけ出し、あなたが選ばれる理由をクリエイトする。
「マーケティングは敷居が高そうで、自分には縁がないと思っていた」
「マーケティングに興味はあるが、難しそうで自分にはできないと諦めていた」
「そもそもコンサルティングは高額な費用を請求されそうだから、無理だと思っている」
「製品・サービスの質には自信はあるのだが、どんなお客さんに届けていいのかわからない」
このような疑問や悩みに心当たりがある方は、ぜひエレメントに問い合わせてほしい。
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●「とりあえず話を聞いてほしい」という方も大歓迎!無料相談も可能だ。今後どうするべきかについて客観的な視点でアドバイス可能だ。場合によっては「あなたはエレメントに頼まなくても十分やっていけると思います」と正直に答えることもある。集客状況を“無料診断”してもらうつもりで、お気軽にどうぞ。
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